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プロスペクト理論とは?損失回避の心理と活用例

作成日:2024年5月9日更新日:2024年6月7日
プロスペクト理論とは?損失回避の心理と活用例

プロスペクト理論(prospect theory)とは行動経済学の重要な理論の一つで、人は得られる利益よりも損失に対して強く反応し、相対的に判断する傾向のことを指します。この記事では、プロスペクト理論の2つの法則と重要概念、プロスペクト理論のビジネスへの活用例をご紹介します。

プロスペクト理論の2つの法則

プロスペクト理論には、人間の非合理的な行動を裏付ける2つの法則があります。

1. リスク回避の法則

最初の法則は「リスク回避」の法則です。例えば、次の2つの選択肢があった場合を考えてみましょう。

①100%の確率で90万円を得られる

②90%の確率で100万円を得られる

合理的に考えれば、①と②の期待値は同じ90万円なので、選択割合は半々になるはずです。しかし実際には、大多数の人が「確実に90万円が手に入る」①を選びます。それは、「100万円を得られるかもしれない」というリスクよりも「確実に90万円を得られる」安全性を重視するためです。

このように、プロスペクト理論の「リスク回避」の法則は、人間が利益を得る場面では、リスクを避けて確実性を選ぶ傾向にあることを示しています。

2. 損失回避の法則

次に、損失が発生する場面での法則を見てみましょう。

①100%の確率で90万円を失う

②90%の確率で100万円を失う

この場合、多くの人は②を選びます。確実に90万円の損失を被るよりは、損失を免れる可能性があるリスクのある選択肢を選ぶのです。

つまり、プロスペクト理論の「損失回避」の法則は、人間が損失を被る場面では、損失そのものを回避しようとする傾向があることを示しています。

プロスペクト理論の3つの重要概念

プロスペクト理論をよりよく理解するには、さらに3つの重要な概念を知る必要があります。

1. 損失回避性

最初の概念は「損失回避性」です。これは、上記の「損失回避の法則」と関連しますが、人間は利益を得ることよりも損失を避けることのほうにより大きな価値を置く心理的傾向を指します。

例えば、1万円を得る喜びと1万円を失う痛みでは、後者のほうがはるかに大きいと言われています。損失に対する嫌悪感が強いため、人は損失を避けようとするのです。

2. 参照点依存性

2つ目の重要概念は「参照点依存性」です。これは、物事の価値を絶対的な基準で判断するのではなく、何らかの参照点と比較して相対的に判断する傾向を指します。

例えば、600万円の年収に対して、前年が400万円だった人は「200万円アップでうれしい」と感じますが、前年が800万円だった人は「200万円ダウンで残念」と感じるでしょう。同じ600万円の年収でも、参照点によって受け止め方が変わるのです。

3. 感応度逓減性

3つ目の重要概念は「感応度逓減性」です。これは、利益や損失の絶対額が大きくなるほど、その変化に対する感応度が鈍くなる傾向を指します。

例えば、数千万円の不動産購入時に「大理石のキッチンにすると+5万円」と言われた場合、5万円の追加出費に対する痛手は小さくなります。数千万円の大口支出に比べれば、5万円はごくわずかな金額に過ぎないからです。

ビジネスへの活用方法

プロスペクト理論における人間の非合理的な行動原理は、ビジネスにおける消費者の心理や行動をよりよく把握でき、マーケティングなどに活かすことができます。

1. 損失回避性の活用

まず「損失回避性」の概念を活用する例としては、次のようなマーケティング施策が考えられます。

  • 期間限定セール
  • 無料キャンペーン
  • 先着特典

これらは、「今買わないと損をする」という消費者の損失回避性に訴えかけ、購買意欲を喚起します。

2. 参照点依存性の活用

次に「参照点依存性」の活用例として、価格設定での工夫が挙げられます。例えば、安価版・標準版・プレミアム版の3段階で価格を設定すると、消費者は無意識のうちに「安い」「普通」「高い」という参照点ができあがります。

その結果、プレミアム版は「高すぎる」と敬遠され、安価版は「物足りない」と選ばれにくくなります。最終的に、標準版が「ちょうどいい」と選ばれやすくなるのです。

3. 感応度逓減性の活用

最後に「感応度逓減性」の活用例としては、高額商品の追加オプション販売が考えられます。先ほどの例でいえば、数千万円の新築住宅に対して「5万円で大理石のキッチンにできます」と提案すれば、追加の5万円は気にならない消費者が多いでしょう。

感応度逓減性を利用して、高額商品に追加オプションを組み合わせやすくなります。

ビジネスへの活用における注意点

プロスペクト理論をビジネスに活用する際は、一つ注意が必要です。それは、短期的な売上げアップを目指すあまり、消費者を惑わせたり焦らせたりするマーケティングをしてはいけないということです。

プロスペクト理論の概念を活用しつつも、消費者にとって有益で信頼できる情報を提供し、Win-Winの関係を築くことが重要です。短絡的な手法に走れば、かえって消費者の不信を買うだけです。

プロスペクト理論から派生する理論

プロスペクト理論から派生した理論にも目を向けてみましょう。これらの理解を深めることで、人間の非合理的行動をより多角的に捉えられるようになります。

1. コンコルド効果

コンコルド効果とは、過去に投じた時間やコスト(サンクコスト)を無駄にしたくないがために、合理的でない選択をしてしまう心理です。例えば、ECサイトで「5,000円以上で送料無料」と表示されていると、「もう少し買わないと無駄になる」と思い、過剰な買い物をしがちです。

2. フレーミング効果

フレーミング効果とは、同じ内容でも表現の仕方を変えるだけで、消費者の判断が変わる効果です。例えば、「20%オフ」と「本来価格の80%」は同じ意味ですが、前者のほうがお得に感じられます。

マーケティングでは、フレーミング効果を意識して、メリットを前面に出した表現を心がけるべきでしょう。

3. メンタルアカウンティング

メンタルアカウンティングとは、人間がお金の使い道を無意識のうちに区別けする心理的な傾向です。例えば、ギャンブルで得たお金は使いやすいが、自分で稼いだお金は大切に使いたくなります。

この心理を活用する例として、ポイントサービスが挙げられます。ポイントは「余剰のお金」と認識されるため、ポイント払いは抵抗感が少なくなります。

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